女性の働き方改革について最近耳にするようになりましたが、実際どのような制度で、企業として何から始めていいのか悩まれていませんか?
一昔前は、男性が外で働き、女性はいずれ家庭に入ると言うのが主流でした。
しかし、日本の総人口が減少していく中で、働き手の確保が困難になってきています。
そのような背景から女性の働き方改革が注目されていますので、企業としても女性の働き方改革がどんなものなのかを知っておきましょう。
本記事では、女性の働き方改革が注目される理由や企業として工夫していく点についてお伝えしていきます。
女性の働き方改革を知ることで企業における女性活躍推進を促進し企業の発展につなげていきましょう。
なぜ、女性の働き方改革が注目されるのか?
なぜ、女性の働き方改革が注目されるのか?
厚生労働省の「「働き方改革」の実現に向けて」では「働き方改革」の目指すところを次のように記載しております。
「働き方改革」とは、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指すという取り組みです。
そして、日本が直面している「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」や「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの課題に対応するために、投資やイノベーション(技術革新)による生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることを重要な課題としています。
それでは「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」や「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」の課題から女性の働き方改革が注目される理由をみていきましょう。
理由①少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少
女性の働き方改革が注目されているのは、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少が年々深刻化しているためです。
まず、日本の総人口の状況をみてみましょう。
日本の総人口は、1億2566万9千人で,前年同月に比べ ▲49万2千人(▲0.39%)と減少しています。(令和2年11月1日現在)
引用:人口推計(令和2年(2020年)11月平成27年国勢調査を基準とする推計値,令和3年(2021年)4月概算値)(2021年4月20日公表)(総務省統計局)
日本の総人口は少子高齢化が急速に進展した結果、2008年ピークを境に人口減少時代を迎えており、2050年には日本の総人口は1億人を下回ることが予測されています。
次に生産年齢人口(15~64歳)の推移をみてみましょう。
引用:総務省 平成30年版 情報通信白書 人口減少の現状「図表0-1-1-1 我が国の人口及び人口構成の推移」
15歳から64歳の生産年齢人口は2017年の7,596万人(総人口に占める割合は60.0%)が2040年には5,978万人(53.9%)と減少することが推計されています。
現在の日本は、総人口の減少とともに生産年齢人口(15~64歳)もハイペースで減少していくことは避けられません。
このような背景から、働き方改革では、総人口と生産年齢人口の減少の中でも効率的に日本の経済を回していく仕組みを考えていく必要があります。
ここ近年、定年の年齢を引き上げるなど高齢者の労働力も注目されていますが、同様に注目されているのが女性の労働力です。
結婚、出産、育児、介護などでまだまだ働き盛りの女性が働き方をセーブしたり、退職したりという状況を回避することができれば、少ない人口の中でも労働力をあげていくことができるため、女性の働き方改革が注目されているのです。
理由②育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化
女性の働き方改革が注目されているのは、育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化に女性が大きく関係するからです。
はじめに内閣府の男女共同参画局令和2年版「女性の年齢階級別労働力率の推移」をみてみましょう。
女性の年齢階級別労働力率について昭和54(1979)年からの変化を見ると,現在も「M字カーブ」を描いているものの、そのカーブは以前に比べて浅くなっています。
「M字カーブ」とは、結婚、出産、育児などで一時的に働き方をセーブせざるを得ない時期とみられています。
昭和54(1979)年は25~29歳(48.2%)及び30~34歳(47.5%)がM字の底となっていますが、25~29歳の労働力率は次第に上がり、令和元(2019)年では85.1%と、年齢階級別で最も高くなっています。
昭和54(1979)年からみるとかなり改善されているとみられますが、総人口の減少を考慮すると、労働力人口が増えたと言えないため、更なる底上げが求められます。
また、M字の底となる年齢階級も上昇しています。
昭和54(1979)年は25~29歳(48.2%)及び30~34歳(47.5%)がM字の底となっていますが、令和元(2019)年には30~34歳(77.5%)及び35~39歳(76.7%)がM字の底となっています。
女性の30代というと、企業において中堅どころになりますので、働き方をセーブされるのは大きな痛手となるでしょう。
女性自身もせっかくキャリアを積み上げてきたのに、結婚、出産、育児、介護などから働き方をセーブしなければいけないのはとても残念なことです。
そのような背景からでしょうか、内閣府の男女共同参画局令和2年版「I-2-13図 就業者及び管理的職業従事者に占める女性の割合(国際比較)」をみると、国際的に女性の管理的職業従事者が低いことがわかります。
女性の労働力を底上げしていくためには、育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化を推進させる必要があるということで、女性の働き方改革を注目されているのです。
女性の働き方改革に関連する法律を理解しよう
日本が直面している「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」や「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの課題に対応するために、女性の働き方改革に関する法律があります。
その法律は「女性活躍推進法」と「両立支援等助成金」です。
女性の働き方改革を推進していくにあたり「女性活躍推進法」と「両立支援等助成金」は欠かせないため、これを機に法律や制度を理解し、活用することで、社内の女性活躍推進を実現しましょう。
女性の働き方改革の法律「女性活躍推進法」とは
「女性活躍推進法」とは、女性が働きやすい環境づくりを企業に求める法律です。
正式名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」で、女性活躍推進に向けて短期間で集中的な取り組みを進める必要があることから10年間の期限がある時限立法として2016年4月に施行されました。
【対象】
女性活躍推進法の対象は、従業員数301人以上の企業です。今後、常時雇用する労働者が301人以上から101人以上の事業主に拡大されます(令和4年4月1日施行)
【概要】
女性活躍推進法は、女性が自らの意思によって職業生活を営み、又は営もうとする女性の個性と能力が十分に発揮される労働環境整備を対象となる企業が推進するよう義務付けた法律です。
女性活躍推進法を遵守する企業は、以下の3つを実行するよう定められています。
女性活躍推進法に基づき、国・地方公共団体、301人以上の大企業は、次のような活動をする必要があります。
(1)自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析
(2)その課題を解決するのにふさわしい数値目標と取組を盛り込んだ行動計画の策定・届出・周知・公表
(3)自社の女性の活躍に関する情報の公表を行わなければなりません(300人以下の中小企業は努力義務)
また、行動計画の届出を行い、女性の活躍推進に関する取組の実施状況が優良な企業については、申請により、厚生労働大臣の認定を受けることができます。
認定を受けた企業は、厚生労働大臣が定める認定マークを商品などに付することができます。
【優良企業の認定(「えるぼし」認定)について】
行動計画の策定・届出を行った企業のうち、女性の活躍に関する取組の実施状況が優良な企業については、申請により、厚生労働大臣の認定を受けることができます。
認定を受けた企業は、厚生労働大臣が定める認定マークを商品などに付することができます。この認定マークを活用することにより、女性の活躍が進んでいる企業として、企業イメージの向上や優秀な人材の確保につながるなどといったメリットがあります。
2021年2月で約1,200社がえるぼし認定を受けています。えるぼし認定マークを自社商品に印刷し、認定をアピールすることも可能です。
女性の活躍推進に関する状況等が優良な事業主の方への認定(えるぼし認定)よりも水準の高い「プラチナえるぼし」認定を創設されましたので、さらなる企業イメージの向上につなげることができます。(令和2年6月1日施行)
2021年度「両立支援等助成金」とは
女性活躍推進法で求められている活動を行うには資金が必要な場合があります。
活動したいけど資金がなかなか出せない・・・
このような悩みを抱えている場合は、「両立支援等助成金」を利用しましょう。
「両立支援等助成金」は、従業員が仕事と育児を両立できる制度の導入、女性の活躍推進を目的とした取り組みを実行した企業を政府が助成金で支援する制度です。
2021年度では、次の6つのコースが用意されています。
・出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)
・育児休業等支援コース
・介護離職防止支援コース
・不妊治療両立支援コース
・女性活躍加速化コース
・新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置による休暇取得支援コース
各コースの概要を簡単に説明致しますので、自社の状況に応じたコースを選択しましょう。
また、生産性の向上を条件とする「生産性要件」を満たした場合は、助成金が割り増しされますので、取り組みが可能であれば、割り増し要件も満たすようにしましょう。
【出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)】
男性労働者が育児休業や育児目的休暇を取得しやすい職場風土作りに取り組み、子の出生後8週間以内に開始する連続14日以上(中小企業は連続5日以上)の育児休業等を取得した男性労働者が生じた事業主に助成するコースです。
中小企業 | 中小企業以外 | |
①1人目の育休取得 | 57万円<72万円> | 28.5万円<36万円> |
個別支援加算 | 10万円<12万円> | 5万円<6万円> |
②2人目以降の育休取得 | 5日以上→14.25万円<18万円> 14日以上→23.75万円<30万円> 1ヶ月以上→33.25万円<42万円> |
14日以上→14.25万円<18万円> 1ヶ月以上→23.75万円<30万円> 2ヶ月以上→33.25万円<42万円> |
個別支援加算 | 5万円<6万円> | 2.5万円<3万円> |
③育児目的休暇の導入・利用 | 28.5万円<36万円> | 14.25万円<18万円> |
【育児休業等支援コース】
育児休業の円滑な取得・職場復帰のため次の取組を行った事業主(①~④は中小企業事業主)に支給するコースです。
①育児取得時 | 28.5万円<36万円> | |
②職場復帰時 | 28.5万円<36万円> | 職場支援加算19万円<24万円> |
③代替要員確保時(1人あたり) | 47.5万円<60万円> | 有期労働者加算9.5万円<12万円> |
④職場復帰後支援 | 28.5万円<36万円> | A 看護休暇制度1000円<1200円>×時間 B 保育サービス費用 実支出額の2/3補助 |
⑤新型コロナウイルス感染症対応特例 | 1人あたり5万円 ※10人まで(上限50万円) |
【介護離職防止支援コース】
「介護支援プラン」を策定し、プランに基づき労働者の円滑な介護休業の取得・復帰に取り組んだ中小企業事業主、または介護のための柔軟な就労形態の制度を導入し、利用者が生じた中小企業事業主に支給するコースです。
①介護休業 | 休業取得時 | 28.5万円<36万円> |
職場復帰時 | ||
②介護両立支援制度 | 28.5万円<36万円> | |
③新型コロナウイルス感染症対応特例 | (労働者1人当たり) 5日以上10日未満→20万円 10日以上→35万円 |
【不妊治療両立支援コース】
不妊治療のために利用可能な休暇制度・両立支援制度(注1)の利用しやすい環境整備に取り組み、不妊治療を行う労働者の相談に対応し、休暇制度・両立支援制度を労働者に取得又は利用させた中小企業事業主に支給するコースです。
(注1)不妊治療のための休暇制度(特定目的・多目的とも可)、所定外労働制限、時差出勤、短時間勤務、フレックスタイム制、テレワーク
①環境整備、休暇の取得など | ②長期休暇の加算 |
28.5万円<36万円> | 1人あたり28.5万円<36万円> ※5人まで |
【女性活躍加速化コース】
女性労働者が、出産・育児等を理由として退職することなく、能力を高めつつ働き続けられる職場環境を整備するために、自社における女性の活躍に関する状況把握・課題分析を行った上で、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」に基づき、課題解決に相応しい数値目標及び取組目標を盛り込んだ一般事業主行動計画を策定・公表・届出を行い、取組目標を実施した結果、数値目標を達成した中小企業事業主に支給するコースです。
支給額 | |
数値目標達成時 | 47.5万円<60万円> |
【新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置による休暇取得支援コース】
新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置として、医師等の指導により、休業が必要とされた妊娠中の女性労働者が取得できる有給(年次有給休暇で支払われる賃金相当額の6割以上)の休暇制度(年次有給休暇を除く)を設け、新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置の内容を含めて社内に周知し、当該休暇を合計20日以上労働者に取得させた事業主に支給するコースです。
支給額 | |
対象労働者1人当たり | 28.5万円(5人まで) |
引用:2021年度の両立支援等助成金の概要(PDF)
企業が工夫すべき点は何か?
女性の働き方改革が注目されていることは理解できてきたけど、いざ女性の働き方改革といっても、まずは何から手を付ければいいのやら・・・
そう悩まれる企業の経営者や人事担当の方は多いことでしょう。
現在(2019年9月)施行中の法律では、実施義務の対象は「常時雇用する労働者が301人以上の企業」とされています。同時に、「常時雇用する労働者が101人以上の企業」は努力義務という位置づけとされています。
しかしながら、今後は常時雇用する労働者が301人以上から101人以上の事業主に拡大されます(令和4年4月1日施行)
いままで努力義務という位置づけだった企業も、令和4年4月1日には「女性活躍推進法」の対象企業になるのです。
これから対象企業となる経営者又は人事担当の方は、今のうちから「企業の事例」から情報収集し、自社が「工夫すべき点」を理解し対応していくことが必要となるでしょう。
企業の事例で情報収集
厚生労働省「女性の活躍・両立支援総合サイト」内の「女性の活躍推進企業データベース」では、女性の活躍推進や両立支援に積極的に取り組む企業の事例など133件を公開しています。(令和3年4月時点)
取り組み内容として次の13項目をだいたい5~7つくらい組み合わせて取り組む企業が多くみられます。
・仕事と育児の両立支援(112件)
・仕事と介護の両立支援(51件)
・テレワーク(41件)
・フレックスタイム制(29件)
・再雇用制度(20件)
・妊娠中の労働者支援(8件)
・男性育児参画(56件)
・事業所内保育施設(21件)
・短時間正社員制度(33件)
・女性活躍推進(86件)
・女性採用拡大(25件)
・女性職域拡大(36件)
・女性管理職登用(60件)
女性の活躍推進や両立支援に積極的に取り組む企業133件中、取り組んだ項目が少ないのは「妊娠中の労働者支援(8件)」「再雇用制度(20件)」「事業所内保育施設(21件)」というところからみると、女性社員が産休育休して待機児童などで職場復帰ができない状況になり、そのまま貴重な働き手を失う企業は今も多いのではないでしょうか?
貴重な働き手を失わないように、妊娠中でも育児中でも在宅勤務で仕事ができる「テレワーク」を取り入れる企業が増えてきています。
しかし、実際にどんな取り組みをしていけばいいかは各企業によります。
そこで、企業が「工夫すべき点」に気づける「働き方・休み方改善指標」で自社がどんな取り組みをしていけばよいかを自己診断するところからしてみましょう。
工夫すべき点に気づける「働き方・休み方改善指標」
女性の働き方改革を推進するため、働き方・休み方の改善に当たっては、企業の実態を踏まえた上で、経営トップが見直しなどの判断をしていくことが重要です。
自社の現状を把握するために、厚生労働省の「働き方・休み方改善ポータルサイト」を活用してみましょう。
「働き方・休み方改善ポータルサイト」では、企業・社員の方が「働き方・休み方改善指標」を活用して自己診断をしたり、企業の取組事例や働き方・休み方に関する資料などを確認することができます。
実際に「働き方・休み方改善指標」の自己診断をすることで、自社がすでに行っている取り組みが見える化され、これからどのようにすれば改善できるかという工夫ポイントを提案してもらえます。
今回は、社員向けの自己診断をしてみます。
【社員向けの自己診断】
働き方・休み方改善ポータルサイトに入ります。
「企業・社員向け自己診断をしたい」を選択します。
「社員向け自己診断をしたい」を選択します。
「働き方・休み方改善指標を使ってみましょう」のページで、今回は「社員向け自己診断スタート」をしてみます。
「社員向け自己診断」でステップ1からステップ4までの質問に回答していくと、ステップ5で働き方・休み方の現状把握や取り組み状態が一目でわかるようになります。
「社員向け自己診断」のチェックシートの結果をもとに「工夫ポイント」を提案してくれます。
今回の結果は社員向けの自己診断でしたが、企業全体で企業向けと社員向けを取り組むと、企業が取り組むべきことや社員一人一人が意識しなければならないことが明確になり、会社全体で働き方改革への意識がぐっと高まります。
まとめ
昨今の総人口の減少や育児や介護の両立などの働く方のニーズの多様化に対応するため、特に女性の働き方改革については注目されています。
国が女性活用企業を応援している面もあり、今後女性で優秀な方は各企業の取り合いになり、新たに確保していくことが困難になるでしょう。
女性の働き方改革を早期に取り入れて、活用していくことで、優秀な女性を結婚、出産、育児、介護などで離職させることなく雇用し続けることができます。
「女性はいずれ家庭に入る」といった考え方は一昔前のことです。
しかしながら、女性自身も子育てや介護により働き方をセーブしなければならないという意識は根強くあります。
これからの時代にあわせて、女性自身も外で働くことこだわらず、テレワークなどによる在宅勤務や時短勤務など、柔軟な働き方に対する意識改革が必要となってきています。
企業側からも女性の働き方改革で雇用を守ることで、女性自身に働くことに対する意識改革を促していくことも大切です。
大切な働き手を守り企業を発展させるため女性の働き方改革をぜひ取り組んでいきましょう。