仕事、介護、プライベートもあきらめないワーク・ライフ・バランス実現を目指す
いつ始まるか予想できない、両親やパートナーの介護。自分らしく働き続けたい女性にとって、仕事、介護、そしてプライベートもあきらめないワーク・ライフ・バランスの実現は、大きな課題となってきます。そこで、仕事と介護を両立するための支援制度やサービスを、事前に知っておくことが重要となります。また、いざ当事者となった時にあわてないよう、介護に直面して困った時の相談先を把握しておくことも大切です。
目次
育児・介護休業法のあらましと、2024年改正のポイント
育児・介護休業法は、働きながら介護をおこなう労働者を支援するための制度で、介護休業制度を始めとする、さまざまな支援制度が定められています。
おもな制度には、要介護状態の対象家族(父母、配偶者、配偶者の父母、祖父母、子、孫)を介護するために休業や休暇を取得できる介護休業や介護休暇、短時間勤務やフレックスタイム制度などの時短勤務等の措置、時間外労働や深夜業の制限をおこなう所定外労働の制限などがあります。
これらの制度を上手に利用することで、仕事と介護をより柔軟に両立し、自分に合ったワーク・ライフ・バランスの実現につなげていくことが可能となるでしょう。
育児・介護休業法に定める「要介護状態」とは、負傷、疾病又は身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態のことを指し、要介護認定を受けていなくても、介護休業の対象となり得る、とされています。
また、育児・介護休業法は2024年(令和6年)5月に改正され、両立支援制度等に関する情報の提供や、テレワークを選択できるよう事業主に努力義務を課すなど、仕事と介護の両立支援制度を利用しやすい雇用環境の整備が事業主に義務づけられました。このように、法の定めによる介護へのサポートはさらに手厚くなっています。
介護離職防止のための個別の周知・意向確認、 雇用環境整備等の措置が 事業主の義務になります 施行日:令和7年4月1日
引用:「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法改正ポイントのご案内」(厚生労働省)
介護が始まる前に、知っておくべき制度とサービス
仕事や介護、さらにプライベートもあきらめないワーク・ライフ・バランスを実現するためには、自分が働く職場の両立支援に関する制度を把握することが重要です。また、介護保険に位置づけられる介護に関する支援・サービス制度や、医療保険による支援とも組み合わせて利用する必要があるでしょう。
介護保険サービスを利用するための要介護認定を受けるまでには、申請から1か月程度の時間がかかります。地域包括センターでは、介護保険サービスの申請を受け付けるだけでなく、相談員が相談にのってくれる場合もあります。急な病気や入院、認知症の進行を感じた時など、介護のサービスが必要だと感じたら、早めに各自治体の地域包括センターなどに連絡してみましょう。
育児・介護休業法で定められている職場の両立支援に関する制度
育児・介護休業法には、介護休業や介護休暇、短時間勤務などのさまざまな制度が定められています。これらの制度の内容をしっかり理解し、目的や必要な期間に合わせて適切に休暇を取得したりすることで、フルタイムの仕事であっても介護と仕事を両立できる可能性が高まります。※労使協定を締結している場合、これらの制度の対象外となる場合があります。
介護のための休業や休暇を取得できる介護休業・介護休暇
- 介護休業:対象家族1人につき3回まで、通算93日まで休業できる
- 介護休暇:対象家族が1人の場合は5日、2人以上の場合は年10日まで。1日または時間単位で取得可能
出典:厚生労働省ホームページ
(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/
koyoukintou/ryouritsu/kaigo/index.html)
介護休業は、介護やリハビリの手助けなどをおこなうために利用することが可能です。また、介護サービスとの連携に必要な手続きをしたり、自宅介護の負担を軽減するための準備をするなど、休業中を仕事と介護の両立ができる体制を整えるための期間として利用することも可能です。
介護休業を取得するには、休業開始予定日の2週間前までに書面等で事業主に申出をおこなう必要があり、基本的に無給の企業が多いようです。
介護休暇は定期的な通院や検査、急な体調不良での通院、介護サービスの手続きなどに使え、1日または半日単位で取得することができます。介護休業と違い、事業主への事前申出は必要ありませんが、あらかじめ介護休暇を取得する可能性がある事を企業側に伝えておくことで、スムーズに取得することができるかもしれません。
介護休暇は企業によっては有給で取得できる場合もあるので、職場に確認をしておきましょう。
短時間勤務やフレックスタイム制度などを利用できる時短勤務等の措置
- 短時間勤務等の措置:労働者が要介護状態にある対象家族を介護するための、所定労働時間の短縮等の措置
出典:厚生労働省ホームページ
(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/
koyoukintou/ryouritsu/kaigo/index.html)
要介護状態の通院の付き添いや、デイサービスの送迎などを考慮し、働く時間帯を短縮したり、ずらしたりするための制度です。事業者は「短時間勤務制度」「フレックスタイム制度」「時差出勤の制度」「介護費用の助成措置」のいずれかひとつ以上の制度を設ける必要があります。勤める企業や就業形態によって利用できる制度が異なりますので、利用については職場でよく相談しましょう。
時間外労働や深夜業の制限をおこなう所定外労働の制限
- 所定外労働の制限(残業免除):労働者が要介護状態にある対象家族を介護するために申請した場合、会社は所定外労働を免除しなければなりません。
出典:厚生労働省ホームページ
(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/
koyoukintou/ryouritsu/kaigo/index.html)
所定外労働の制限(残業免除)を使って、定時に仕事を切り上げることで、要介護状態の家族の夕方以降の見守りや、服薬の手助けなどのケアをしながら働き続けることができます。
この他にも、「時間外労働の制限」や「深夜業の制限」、「転勤に対する配慮」などさまざまな制度がありますので、会社の規則を確認しておくことで、介護が必要となった時の対応を事前に考えることもできるかもしれません。
介護保険制度に基づく支援・サービス
介護保険制度に基づく支援・サービスは育児・介護休業法と合わせて利用することが可能です。デイサービスやショートステイ、訪問入浴介護などを利用することで、自宅での介護の負担を軽減し、仕事と介護を両立できる可能性が高まります。
サービスをうまく取り入れることで、自分自身の心身の健康を保つために、プライベートな時間を作るよう模索することも大切です。常時介護の必要はない要支援と認定された場合にも利用できるサービスもありますので、自身や家族で抱え込むのでなく、どういったサービスがあるのか、まずはよく確認してみましょう。
介護保険で利用できるサービスには、要介護1~5の認定を受け利用できるサービス(介護給付)と 要支援1~2の認定を受け利用できるサービス(予防給付) があります。大きく分けると
- 介護サービスの利用にかかる相談
- 自宅で受けられるサービス
- 施設に通う日帰りの通所サービス
- 施設等で生活(宿泊)しながら長期間、または短期間利用できるサービス
- 訪問、通い、宿泊を組み合わせて受けられるサービス
- 福祉用具の貸与など、福祉用具の利用にかかるサービス
があります。
出典:厚生労働省ホームページ
(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/
koyoukintou/ryouritsu/kaigo/index.html)
自宅で利用できる訪問サービス
自宅で利用できるサービスは、自宅での生活を続けながら必要なケアやサポートを受けることができます。食事や入浴の身体介護だけでなく、被介護者のための掃除や洗濯、買い物の生活援助も受けられる訪問介護や、心身機能の回復や維持のための訪問看護、訪問リハビリテーションなどを受けることができます。
自宅での介護は、施設に入所するのに比べると経済的な負担を軽減できる傾向にあります。また、自宅にいることで被介護者が自分でできることを続けていくことにより、心身の健康も維持しやすくなります。
施設に通う通所サービス
日帰りで介護施設でケアを受けることのできる
介護を受ける人も自宅に閉じこもりがちな生活では、心身の健康維持が難しくなりますが、施設に通うことで、リハビリやレクリエーションを楽しみ充実した時間を過ごせるでしょう。介護をおこなう家族も、通所介護の間に仕事をするだけでなく自身のプライベートの時間を持つことで、リフレッシュもできるでしょう。
施設等での生活や短期間、または長期間の宿泊が可能なサービス
施設での生活や、宿泊が可能なサービスには、いくつか形態があります。代表的なサービスに、常時介護が必要な高齢者が長期間入所できる介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)や、リハビリテーションを中心としたケアを提供する介護老人保健施設(老健)、また、一時的に介護施設に宿泊し介護サービスを受けられる短期入所生活介護(ショートステイ)などがあります。
介護が長期的に必要となる場合や、認知症が進行し24時間の見守りが必要である場合など、自宅での介護が難しい場合にはこういったサービスの利用を検討することで、介護をおこなう家族にも、被介護者の安全にとってもプラスとなるでしょう。また、介護をおこなう家族の出張や病気などで一時的に介護ができない場合や、介護をおこなう家族が一時的に休憩をとるために、ショートステイを利用することも考えられます。
福祉用具の貸与
福祉用具は、自宅介護をする場合に、生活の安全性を増し、介護をおこなう家族の負担やストレスを軽減するためのものです。要介護度によっては、指定を受けた事業者から介護用ベッドや手すりなどを、費用の一部を負担することで借りることが可能です。
要介護度によって福祉用具貸与の対象外となる場合がありますが、医師の所見やケアマネジメントの判断等で例外的に給付が受けられることもあるため、必要と感じた場合には相談をしてみましょう。
フリーランスで在宅勤務の場合
フリーランスで在宅勤務をしている場合、介護と仕事の両立はより柔軟に行える一方で、会社員と比べ制度的な保護が少なく、業務量を減らせば収入に直結することもあり、介護の負担は決して小さくありません。
2024年(令和6年)11月に施行されるフリーランス・事業者間取引適正化等法では、契約期間が6か月以上の継続的業務委託をおこなう場合には、相手の申し出に応じて、育児・介護と仕事を両立できるよう配慮しなければならないと定められており、フリーランスを対象とする、業務と介護の両立を支援する社会的な動きもでてきています。
自分の人生を生きることの大切さ
先々のことを考えるとき、「介護」と聞くと気持ちが暗くなってしまう人も少なくないでしょう。いつ始まり、いつまで続くのか分からない介護だからこそ、精神的に追い詰められる前に、自治体や被介護者の主治医、職場や家族など周りに相談しすること、そして、制度やサービスを理解し、うまく活用することが大切です。
できる限りたくさんの人に相談することで、活用できる、利用するべき制度やサービスについて知ることができます。自分のキャリアとプライベートをあきらめず、心身の健康を保ちながら生活をしていく道を、より多くの人と悩みや情報を共有しながら探っていくことが重要といえるのではないでしょうか。