フリーランスの契約に必須の知識、フリーランス保護新法についても解説

仕事

「フリーランス」という働き方は、多様な働き方のひとつとして日本社会に普及しつつあります。一方で日本では「終身雇用制度」、「年功序列型」というシステムが長く採用されてきました。これらのシステムは、会社や団体に属さず、労働の対価としての給与ではなく、成果に対しての報酬を受け取るフリーランスとは、いわば対極にあるといえます。したがって、法律などのフリーランスを取り巻く社会制度は、現在整えられつつあります。

目次

    「フリーランス」とはどのような働き方?

    企業などの団体に属さず、個人で活動し、スキルや能力を活かして収入を得る働き方を「フリーランス」といいます。

    その職業は

    • 技術者(製造・建築・土木・情報処理・情報通信分野などにおける)
    • ライター、編集者、カメラマン、デザイナー
    • 商品販売、営業
    • 法人や団体の役員

    など、多岐にわたります。また、本業では会社に属し、副業をフリーランスとして行っている人もいます。

    フリーランスで働くメリット、デメリット

    これまでの日本社会で慣例となっている働き方ではなく、フリーランスを選ぶ理由、そのメリットとは、どのようなものでしょうか?

    • 時間や場所にとらわれない「自由な」働き方ができる
    • 成果しだい、能力やスキルしだいで手取り収入が増える
    • 定年制、年齢制限がない
    • 自分のスキルを活かせる仕事、専門分野を追究する仕事などが選べる
    • プライベートな時間を確保しやすい

    ここであげたメリットには、いずれも「主体性をもって働く」という意識がみられる、といえるでしょう。

    一方で、デメリットももちろんあります。

    • 収入が不安定である
    • 契約や成果に対して自己責任が重い
    • 健康保険や年金などの社会保障の不足

    このようにフリーランスで働くデメリットは、生活維持のリスクに直結することが多いといえます。

    なかでも「自己責任の重さ」は、企業や団体から業務委託を受けることの多いフリーランスの場合、大きなリスクとなり得ます。フリーランスとして活動するときは、組織に対して、個人で対応することの難しさが問われる場面が多々あるでしょう

    この記事では、フリーランスとして仕事をする際に、自らと契約相手の責任を明らかにし、成果の仕様や納期、支払について取り決めを交わす、いわば約束する「契約」について解説します。

    フリーランスの契約に影響する法令とは?

    「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」

    令和3年(2021)に、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の連名で「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が策定されました。

    フリーランスという働き方は、多様な働き方、ギグ・エコノミーを拡大させることによって、高齢者を含む働き手の増加につながると期待されています。ギグ・エコノミーとは、短期・単発の仕事を請け負い、個人で働くことをいい、世界中で広まり、その市場規模も急成長しています。

    このガイドラインは、日本政府がフリーランスの保護ルールの整備を行うことを目的として策定しています。そこで、フリーランスがどのようなことに気を付けて発注者と取引すればよいのか、契約書を交わせばよいのか、についての参考として見ていきましょう。

    フリーランスの定義

    このガイドラインでは、先だっておこなわれたフリーランスの実態調査をもとに、おもに「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)」「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」において法令上の問題行為が明確にされています。

    このガイドラインにおいての「フリーランス」とは、

    • 実店舗がない、コワーキングスペースやネット上の店舗も実店舗とはしない
    • 雇人がいない、従業員を雇わず自分と同署の親族だけで個人経営の事業を営んでいる
    • 自営業主やひとり社長
    • 自身の経験や知識スキルを活用して収入を得る
    • 耕地や漁船を有する農林漁業従事者は「フリーランス」とはしない

    とされています。「フリーランス」について、法律上では定義されてはいません

    各法令とフリーランスとの適用関係

    独占禁止法は、事業者とフリーランス全般との取引に適用されます。また、発注者が資本金1000万円超の法人である場合は、下請法も適用されます。

    ここで一点注意したいことは、フリーランスとして業務を行っていても、実態は発注事業者の指揮命令を受けて仕事に従事していると判断される場合など、「雇用」に該当する場合には、労働関係法令が適用され、その保護を受けることです。

    フリーランスとして契約するときの注意

    取引内容を明らかにする書面(契約書など)の取り交わしについて

    フリーランスとして仕事を受注する際には、役務(仕事)の具体的な内容、報酬やその支払方法、支払期限、納期など取引内容をはっきりさせておく必要があります。

    これらを記した契約書などの書面を発注者が交付しないことは、独占禁止法上不適切です。また下請法の規制の対象となる場合は、書面の交付義務違反(下請法第3条)となります。

    口約束だけではなく、取引内容をはっきりさせておくことは、フリーランスで仕事を受注する場合に重要なことですが、それを記した書面の発行は発注側の義務です。契約書などの書面が交付されないことは、事前に約束した内容を一方的に変更されたりするおそれがあり、発注者への信頼度を下げるものと判断してよいでしょう。

    報酬の支払について

    ガイドラインが策定された背景には、「発注事業者の取引上の地位がフリーランスに優越している」という認識があります。フリーランスは自分自身で仕事の受注を受ける必要があり、立場上、仕事を発注する事業者より弱い立場にあるという考え方です。

    よって、拒めば今後仕事を受けられないなど、フリーランスより立場上優越している発注事業者により、報酬の支払を遅らせられたり、報酬を減額されたり、著しく低い報酬を一方的に決定なされたりした場合は、独占禁止法においては優越的地位の乱用として問題となり、下請法については第4条で禁止されている「下請け代金の支払遅延」「下請代金の減額」「買いたたき」などとして問題となります。

    「令和4年度フリーランス実態調査」(内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省)で、発注者との取引の中で受けたことのある納得できない行為(選択、複数回答)として、2119名中251名が「報酬の支払が遅れた・期日に支払われなかった」と回答しています。また「あらかじめ定めた報酬を減額された」と180名が回答するなど、フリーランスとして働くうえで、報酬の支払いにかかわるトラブルが多いことがわかります。

    役務の提供について

    役務の提供後に、正当な理由がなく、やり直しが要請された場合、一方的に発注を取り消された場合には、独占禁止法においては優越的地位の乱用として問題となり、下請法においては第4条で禁止されている「不当なやり直し」や「不当な給付内容の変更」として問題になります。

    また、フリーランスに成果物にかかわる著作権が発生する場合などに、発注事業者が役務の成果物にかかわる権利の取り扱いを一方的に決定する場合、独占禁止法においては優越的地位の乱用として問題となり、下請法においては第4条で禁止されている「不当な経済上の利益の提供要請」として問題になります。

    契約書サンプルの活用

    「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」にはこのガイドラインに基づく契約書サンプルが提示されているので、契約締結の際の参考としましょう。

    このほかにも、労働関係法令の適用を受ける場合の詳しい説明や、フリーランスと発注事業者との間をとりもつサービスなどを行う仲介事業者が遵守すべきことについても言及があるので、フリーランスとして活動する際には、不当な要求や不利益から自らを守るために、よく確認しておくことをおすすめします。

    フリーランス保護新法について

    「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」では「独占禁止法」と「下請法」に適用される問題などが解説されていましたが、令和5年(2023)には、フリーランスの取引適正化のための法律として「特定受託事業者に関わる取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法、通称:フリーランス保護新法)が国会で可決成立、5月に公布されました。

    まず、この法律の対象となるのは「業務委託」にかかわる取引です。業務委託とは事業者間でなされる委託取引で、消費者と事業者とのものは含まれません。事業者がその事業のために成果物の作成や役務の提供などを委託することです。

    業務委託の受注者である「特定受託事業者」とは「フリーランス」のことを指しています。フリーランスには従業員のいない個人事業者、ひとり社長の法人が含まれます。
    発注者である事業者には「特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額等を書面又 は電磁的方法により明示しなければならない」など書面による取引条件の明示、「特定受託事業者の給付を受領した日から60日以内の報酬支払期日を設定し、支払わなければならない」という期日における報酬支払、募集情報の的確標示、ハラスメント対策の義務が明文化され、課せられています。

    また、継続的な発注がなされる場合には、受領拒否などの禁止行為、育児介護等への配慮、中途解除等の予告に関する規制が設けられます。

    「特定受託事業者に関わる取引の適正化等に関する法律」の対象となる業務委託について

    出典:「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 (フリーランス・事業者間取引適正化等法) 説明資料」(内閣官房新しい資本主義実現本部事務局、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省)

    フリーランスへのハラスメントの実態

    フリーランスへのセクハラ、パワハラ、マタハラなどのハラスメントは、フリーランス保護新法が成立する過程でも重大視されてきた問題のひとつといえます。

    「令和4年度フリーランス実態調査」では、「主な契約において、仕事の依頼者等からハラスメントを受けたことがある」(選択式、複数回答可)と回答した人が2119名中、セクハラが84名(セクハラのために仕事上で不利益を受けた場合、業務の遂行に悪影響が生じた場合両方の回答の合計)、パワハラが129名、マタハラが8名となっています。

    また、出産、育児、介護のために、一方的に取引を打ち切られたり、取引量を減らされたりした、という回答も少なからず調査結果に示されています。

    これら、ハラスメント対策に関わる体制整備や育児介護などへの配慮なども発注者に義務づける、フリーランスとして働く際に被り得る不利益や不当な扱いに対し、法整備が進められたことは、フリーランスという働き方が日本社会で認知され、浸透してきた結果であり、より普及していくきっかけになるといえるでしょう。

    法律は、自己防衛策として知っておくべきもの

    フリーランスで働いている、あるいは働くことを検討する方は、この法律にぜひ一度目を通しておくことをおすすめします。フリーランスのデメリットのひとつである、個人で活動すること、個人で組織を相手に取引することのリスクを回避するためには、自己防衛策として法律を知っておくことが重要です。

    特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 (フリーランス・事業者間取引適正化等法)の概要

    特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(厚生労働省ホームページ内)

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