未経験からのSAPリスキリング 高需要スキルで広がるキャリア
今、再就職や転職を考える女性に「IT未経験からリスキリングを通して需要の高いSAP人材を目指す」という選択肢が広まりつつあります。
SAPとは、企業の業務情報を一元管理できるERPシステムのひとつで、多くの企業が導入し、DX推進の要となっています。
本記事では、SAP未経験者がスキルを習得する方法や、活用できる職種・難易度について詳しく解説します。
目次
DXを支えるSAPとは リスキリングを通して広がる柔軟な選択肢

昨今デジタル化の波が加速するなかで、多くの企業が取り組んでいるのが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。そして、DXを支える基盤として欠かせないのがERP(基幹系情報システム)であり、その代表格が「SAP(エス・エー・ピー)」です。
財務、人事、販売管理など、企業活動の中核を担う業務を一元管理できるSAPは、世界中で導入が進んでいます。しかし一方で、SAPに精通した人材は不足しており、「SAPやITは未経験」という方にもリスキリングを通して大きなチャンスが訪れているのです。
とくに、2027年に既存のSAPシステム「SAP ERP6.0」の保守が終了する「2027年問題」への対応は、多くの企業にとって喫緊の課題となっています。新システム「SAP S/4HANA」への移行が求められる中、そのプロジェクトを支えるSAP人材は今後さらに需要が高まるでしょう。
これまでのキャリアがIT業界と無縁であっても、リスキリングを通じてSAPスキルを身につければ、企業での活躍はもちろん、フリーランスとしての柔軟な働き方にもつながります。
今は、DX人材を目指せるビジネスITスキルを身につける好機といえます。ここからは、SAP未経験の方に向けて、求められる職種やスキル、学び方などを詳しく見ていきましょう。
深刻化するSAP人材不足 2027年問題が生む未経験者のチャンス
SAP ERP6.0のサポート終了は、単なるシステムの切り替えではありません。企業の基幹業務そのものを新しいシステムに移行させる必要があるため、膨大な準備と人材が求められます。
しかし、現状ではSAPコンサルタントやエンジニアといった専門職に加え、テスターやマニュアル作成といったサポート職に至るまで、幅広い人材が不足しています。
とくにSAP未経験者にとっては、この人材不足こそがチャンスです。企業側は経験豊富な人材だけでなく、基礎的なスキルを習得し意欲のある未経験者を採用し、育成する動きも活発化しています。
SAP人材が求められる職種と難易度

SAPに関する仕事は、コンサルタントやエンジニアのように高度な専門性を必要とするものから、テスタ-など比較的未経験でも挑戦しやすい職種まで幅広く存在します。
たとえば、以下のような職種があります。
SAPトレーナー、インストラクター
SAPシステムを導入した企業の社員に向けて操作方法を教える仕事です。人に教えることが得意な方や、教育分野に関心のある方に向いています。
企業によってはFI(財務管理)、MM(在庫管理)、SD(販売管理)など特定のモジュールを導入しているところもあり、難易度はあがりますが、そのモジュールに関する知識やスキル、経験があるとより有利になるでしょう。
また、学習サポーターのようにe-learningなどでSAPの学習をする人に向け、チャットやビデオ会議ツールを使用して学習内容の質問や問い合わせに対応する業務もあります。学習した経験を活かすことができるので初心者でも始めやすいといえます。
SAPトレーナーやインストラクターの難易度と必要スキル
- SAPの基本操作やモジュール知識(FI、MM、SDなど)
- Slack、Zoom、Teams、GoogleMeetなどのコミュニケーションツール
- 文章による説明力・質問対応力
難易度:初心者(学習サポーター)〜中程度(モジュール対応・業務知識が必要)
SAP導入企業への転職・就職
経理や人事といった既存のキャリアにSAPの知識を掛け合わせることで、即戦力として活躍できる場が広がります。
たとえば、FI(財務管理)モジュールを導入している企業にとっては、経理の経験に加えてSAPの知識がある人材が即戦力として求められるでしょう。
同じように、HR(人事管理)モジュールを導入している企業が人事業務の経験がある人を、SD(販売管理)モジュールを導入している企業が流通業務の経験がある人を募集する際、それぞれSAPの知識を備えている人が、より採用する人材として望ましいといえます。
SAP導入企業への転職・就職の難易度と必要スキル
- SAPの基本操作やモジュール知識(FI:財務管理、HR:人事管理、SD:販売管理、MM:在庫管理)
- 経理、人事、販売分野などでの実務経験
難易度:中程度(業務知識がある方は比較的スムーズに習得可能)
SAPテスター
開発が終わった後、システムが業務に問題なく利用できるかテストする仕事が、テスターです。テスト項目に従い、正しく動作するかを確認し、エラーやバグ(不具合)を発見、修正していきます。
未経験可の求人もあり、SAPに触れる最初のステップとして、また、フリーランスとしても参画可能な職種です。
SAPテスターの難易度と必要スキル
- SAPの基本的な知識(操作画面や業務フローの理解)
- Excelの基本的なスキル(関数・フィルター・表作成など)
- 質問事項や不具合報告を正確にわかりやすく文章で伝えるスキル
難易度:初心者~(コンサルタントやエンジニアに比べハードルは低く、未経験者を対象とした求人も多い)
マニュアル作成
SAP導入後、ユーザーのための業務フローや操作マニュアルを作成する役割で、文章力やドキュメント作成スキルを活かせます。
フリーランスとしても案件に参画可能な職種です。
SAPマニュアル作成の難易度と必要スキル
- SAPの基本的な知識(操作画面や業務フローの理解)
- WordやExcelなどドキュメント作成のための基本的なスキル(図表や手順書の作成に必要な基本操作)
- 納期に合わせた作業スピードが求められる場面もあります
難易度:中程度(プロジェクトの規模やマニュアルの詳細度によっても異なる)
SAP導入プロジェクトのPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)
PMOとはProject Management Officeの略で、個々のプロジェクトのマネジメントをサポートする専門チームや部署のことです。プロジェクトの計画、進捗管理、リスク管理などのプロセスを整備し、各プロジェクトが予定通りに進むよう支援します。
仕事内容の例:
・プロジェクトデータの収集・共有
・会議体のコーディネート・議事録作成
・経費精算・勤怠管理
・進捗・リスク・コストの管理
SAPの知識があれば、SAP導入プロジェクトにてPMOとして参画できる可能性があり、また、フリーランスとして案件に参画可能な職種です。
SAP導入プロジェクトのPMOの難易度と必要スキル
- SAPの基本的な知識
- 一般事務の経験
- Word・Excel・PowerPointなどのスキル
- コミュニケーションスキル
- 日本PMO協会が実施しているプロジェクトマネジメント関連の各種認定資格を取得しているとなお良い
難易度:中~高難度(プロジェクトの進捗、コスト状況などを把握し管理するマネジメントスキルが必要になるため、難易度は高い)
SAPエンジニア
SAPのシステム開発や運用を担う専門職。ABAPというSAP独自のプログラミング言語を習得する必要があり、難易度は高いですが市場価値は非常に高いです。
フリーランスとしても案件に参画可能な職種です。
SAPエンジニアの難易度と必要スキル
- SAPの専門的な知識(SAP独自言語ABAPを含む専門知識)
- 英語を中心とした語学力(ドキュメント読解・海外拠点との連携)
難易度:やや高~高難度(一般的なシステムエンジニアにくらべ、SAPの専門的な知識を習得する必要もある)
SAPコンサルタント
顧客の課題を分析し、最適なシステム導入を提案・実行する職種。経験やスキルの積み重ねが必要なため未経験から直接目指すのは難しいですが、キャリアの最終的な到達点として人気があります。
フリーランスとして案件に参画可能な職種です。
SAPコンサルタントの難易度と必要スキル
- SAPの専門的な知識(業務モジュール・導入プロセスの理解)
- 顧客との折衝や提案に必要なコミュニケーション能力
- 進捗・予算・リソースの調整を含むプロジェクト管理能力
- SAP認定コンサルタント資格(必須ではないが取得しておくことで信頼性と専門性が高まる)
難易度:高難度(システム開発やコンサルティング経験が求められるため、未経験者は段階的なスキル習得が必要)
未経験の方は、まず「テスター」「マニュアル作成」「トレーナー」など比較的入りやすい職種で経験を積み、その後エンジニアやコンサルタントを目指す流れがおすすめです。
未経験からSAP人材になるための学び方

SAPを未経験から学ぶには、基礎知識を得てから実践へと進むステップが重要です。
また、SAPの学習方法にはいくつかありますので、自分に合った方法を見つけてみてください。
書籍、Webサイトから基礎を学ぶ
ERPやSAPの仕組みを解説した入門書は、最初のとっかかりに最適です。何度も読み返すことで理解が深まります。
オンライン講座を活用する
UdemyやSAP社公式の「SAP Learning Hub」など、動画や実習を通して学べるサービスが増えています。公式の「SAP Learning Hub」は、就業している会社から受講のための補助があるか、企業の研修で受講することができないかを確認するのがおすすめです。
また、オンライン学習プログラム「でじたる女子+」のSAP講座では、女性や未経験者向けに設計されたイラストや動画でSAPの基本知識を学び、さらに実際にSAPシステム上でデータの登録や、伝票の作成操作などを行う講習もあります。SAPを実際に操作して学ぶことで、基本知識~実践のステップを踏むことができます。
オンライン講座やeラーニングは、いつでもどこでも学べ、初心者でも視覚的に理解しやすいのが利点です。
実務にチャレンジする
SAPを深く学ぶには、未経験可の求人に応募して、現場で学びながらスキルを磨くのが最短ルート。小さな案件から経験を積み上げていくことで、やがて専門性の高い職種へと進むことができます。
また、SAPコンサルタントやエンジニアを目指すなら、SAP案件を扱う企業に入社するのも選択肢のひとつです。
システム開発やコンサルティングの経験があれば、SAP案件を扱うコンサルティングファームやSIer(エスアイヤー)企業(「System Integrator」の略称で、顧客の業務を分析し課題解決に向けたコンサルティングからシステムの設計、開発、運用・保守までを請け負う企業のこと)へ入社することで、実務を通してSAPに関する知識やスキルを身につけることができるでしょう。
資格取得で信頼度を高める
「SAP Certified Application Associate」などのSAP認定コンサルタント資格を取得するための学習で専門性が高まりますし、資格は転職や独立の際に大きな武器になります。
▶SAP資格のメリットや取得方法についてはこちらの記事へ
SAP人材として身につけたいスキル
SAPそのものの知識はもちろん、次のようなスキルも身につけておくと再就職やキャリアチェンジに有効です。
プロジェクトを円滑に進めるコミュニケーション力
たとえばSAPコンサルタントの場合、顧客が抱えている課題を理解し、それを解決していくためには高度なコミュニケーションスキルが必要とされます。
また、テスターやエンジニアでは、齟齬なく正確に業務をこなすためのコミュニケーションスキルが重要です。
ドキュメントや仕様書を読み解くための英語力
SAPは海外製品のため、使用方法や詳細な仕様解説などのドキュメントは全て英語です。翻訳されている部分もありますが、ある程度のリーディング力があると有利。
また実際に操作する際も、主要なSAP用語を英語で理解できているとわかりやすいでしょう。
Excelやデータベース操作といったIT基礎力
基本的なPCの知識、ネットワークについての知識、またデータベースに関する最低限の知識は必要でしょう。
また、エンジニアやコンサルタントには、もっと高度なITスキルも求められます。
エンジニアを目指すならABAP言語の習得
「ABAP」とは、SAP独自のプログラミング言語で、標準機能では不足している機能を補うためにアドオン開発をする際に用いられます。エンジニア職を目指す方は、ABAPの習得がキャリア形成の鍵になります。
とくに女性の場合、これまでの事務・経理・人事の経験を強みにしながら、SAPスキルを掛け合わせることで唯一無二のキャリアを築くことができます。
SAPスキルで柔軟な働き方を実現する

SAP関連の仕事は、企業に勤めるだけでなく、フリーランスとして案件に参画できるのも大きな魅力です。リモートワークの案件も多く、子育てや家庭との両立を重視したい女性にとって、柔軟な働き方を選びやすい分野といえます。
「キャリアも大切にしたいけれど、ライフスタイルも諦めたくない」――そんな想いをかなえられるのが、SAPを学ぶことの大きなメリットです。SAP未経験からでも始められる学習の道は開かれています。
これからのキャリアを考えるときに、SAPスキルは大きな選択肢のひとつになるでしょう。


