ワーク・ライフ・バランスを整える「新しい働き方」とは
近年ワーク・ライフ・バランスを重視した「新しい働き方」が注目を集めています。とくに結婚、子育て、介護などでキャリアが途絶えてしまいがちな女性にとっては、いかに仕事と家事を両立してキャリアを積んでいくか、ワーク・ライフ・バランスを整えるかで悩むことがあるでしょう。この記事では、就業形態、働く場所、働く時間において「新しい働き方」、それらのメリット・デメリット、導入事例などをご紹介します。もし今、働きにくさを感じているなら、「新しい働き方」を知ることで、働き方を見直すきっかけにしてみてください。
目次
従来の日本型雇用システムから新しい形態へ 「就業の仕方」に増える選択肢
ワーク・ライフ・バランスとは、「仕事と生活の調和」を意味します。平成19年に国が策定した「ワーク・ライフ・バランス憲章」において、目指すべき社会の状態を次のように定義しています。
誰もがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たす一方で、子育て・介護の時間や、家庭、地域、自己啓発等にかかる個人の時間を持てる健康で豊かな生活ができる
出典:「ワーク・ライフ・バランス憲章」
逆に言えば、このような「仕事と生活の調和」が、日本社会では成されていないということを意味します。とくに「家事は女性がするもの」という固定観念のもとで、仕事をもつ女性が「理想の生き方」ともいえるワーク・ライフ・バランスを実現することは日本社会の大きな課題といえるでしょう。
では、このワーク・ライフ・バランスを実現させるために取り入れられつつある「新しい働き方」について見ていきましょう。
仕事への新しい参画の仕方 雇用・就業形態
ジョブ型雇用システム
日本ではこれまで、新卒一括採用、年功型賃金、長期・終身雇用、企業内人材育成などを特徴とする雇用システムが根付いており、こういった従来の日本型雇用システムを「メンバーシップ型雇用」と呼びます。
メンバーシップ型雇用では、企業が毎年若者に就業機会を多く提供している、経済面での安定などが社員の高い定着率につながる、社内で様々な仕事を経験し、多様な職能を身につけられるなどのメリットがあります。
しかし一方で、中途採用が抑制される、主体的なキャリア形成を抑制している可能性がある、実際の仕事内容・成果と賃金水準との間に乖離が生ずる傾向にある、企業主導の人事異動が働き手の希望を汲めていない傾向にあるなどの課題やデメリットも。
また、この従来の雇用システムのもとで、伝統的に家事・育児、そして介護という「無償労働」を担わされてきた女性は、結婚・出産により退職せざるを得ない、職場復帰の道を閉ざされる、というキャリア形成にとって不利な状況に追いこまれてきたともいわれています。
そこで、近年注目され、採用されつつある雇用システムが「ジョブ型雇用」です。端的に言えば、従来の学歴や年齢を重視しての採用ではなく、「ある業務や課題に対しそれを遂行できる解決できるスキルや経験があるか」が採用基準になっています。
両雇用システムの違いをいくつか挙げてみると、従来の雇用システムでは
- 定期採用(新卒)中心
- 人材流動性は低い
- 賃金は従業員の職務遂行能力を重視する「職能給」
ジョブ型雇用では
- 新規ポジションや欠員補充などが多い
- 人材流動は高い
- 賃金は業務の内容、専門性を重視する「職務給」
と、どちらかと言えば、ジョブ型雇用のほうがスキルや経験を生かした転職や中途採用に向いているといえます。
こちらで挙げた両雇用システムの違いは一部にすぎませんが、より安定して収入を得られるのはどちらか、より能力に応じた報酬を得られるのはどちらか、ライフスタイルの変化により柔軟に対応できるのはどちらか、と比較すると、どちらにもメリット・デメリットがあることがわかりますね。
ただ、従来の雇用システムにジョブ型雇用をかけ合わせた雇用形態の推進もなされており、企業への転職や就業を考える際の選択肢は増えてきているといえます。
業務委託
事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造、情報成果物の作成又は役務の提供を委託することを業務委託といい、会社に属さず、フリーランスの個人事業主として企業と業務委託を結ぶ働き方も注目されています。
国でも「多様な働き方に対応」し、「個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備するため」、令和5年、フリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が国会で成立し、取引条件の明示や報酬の支払い義務、報酬減額の禁止などについて定められ、ハラスメント対策のための体制整備などが義務付けられることになりました。
個人で活動し業務を受注する際には、どこの組織にも属さず、契約も業務も個人で行うためリスクも伴いますが、その軽減が期待されますね。
パラレルワーク(複業)・副業・兼業
副業・兼業する人は、年々増加する傾向にあります。副業は文字通り、メインの仕事を持ちつつサブで行う仕事のイメージですが、兼業は複数の仕事を同じくらいの労力をかけて掛け持ちすること、という意味で使われます。
離職せずに別の仕事に就き経験を積める、収入を増やせる、やりたいことへ挑戦し自己実現を追求できる、などのメリットがありますが、逆に就業時間が長くなりワーク・ライフ・バランスを崩すこともあるので自己管理が必要です。
同じく仕事を掛け持つパラレルワークは、複業ともいわれ、複数の仕事を本業として掛け持つ兼業に近いものですが、その「仕事」には、営利目的のビジネスだけではなく、ボランティア活動や研究活動、社会貢献活動なども含まれます。
朝型の働き方、スーパーフレックスタイム制度など 多様化する就業時間
従来の働き方では、就業時間は9時〜18時までなど職場ごとの「定時」があり、それに合わせて勤務する場合がほとんどでした。これを固定時間制といいます。繁忙期、閑散期に対応して就業時間を長くしたり短くする変形労働時間制もあります。これらどちらも就業時間を決めるのは企業です。
一方、フレックスタイム制とは、始業時間や就業時間を働く側が決める制度です。コアタイムが就業規則で設定されている場合は、その時間帯は必ず就業しなければなりません。コアタイムのない場合を「スーパーフレックス」と呼んだりもします。子どもを保育園や習い事などに送迎したり、親の介護の都合など、出社・退社時間に融通がきき、仕事とプライベートに配分する時間を自分で決めることができれば、家庭生活との両立がしやすくなり、ワーク・ライフ・バランスが向上しますね。
フレックスタイム制のイメージ
フレックスタイム制では、働く側が24時間いつでも働く時間帯を決められるわけではなく、労使協定で働く時間帯が定められており、その範囲内で選択します。この制度を導入した企業では労使協定で、「清算期間」と「総労働時間」も決められています。清算期間とは、労働者が労働すべき時間を定める期間のことで、平成30年に法改正によって一か月から3か月に変更されました。これによって、働く側はより柔軟に就業時間を決められるようになったといえます。
朝型の働き方
朝型勤務は、始業時間を早め、その分仕事を終える時間も早くする取り組みのことです。これにより通勤ラッシュを避けることもでき、コロナ禍により採用する企業が増えました。
午前中に勤務時間を長くとり、午後は早めに切り上げることで、夕方から夜にかけて、食事の支度などの家事や家族団らんの時間、趣味の時間などを長く持つこともできるでしょう。
「朝型フレックス制」を導入の企業事例
東京都港区に本社をおく総合商社、伊藤忠商事株式会社では、新型コロナウイルス感染症流行より約10年遡る2013年に朝型勤務を導入。それからワーク・ライフ・バランス重視の他の取り組みも行われた約10年間で労働生産性が5倍以上に増加したことがホームページでも紹介されています。
2022年に導入した「朝型フレックス制度」では、朝5時から8時の早朝勤務を推奨、9時から15時をコアタイムとして設定し、15時での早帰りも可能といいます。7時50分以前に勤務を開始した場合は、インセンティブとして、深夜勤務と同様の割増賃金(25%)が支給されるなど朝型の働き方推奨が徹底されています。
家庭生活にさきたい時間を、早く退社することで、まとめて確保することができれば、子育てや介護、趣味や余暇の時間など、ワーク・ライフ・バランス実現につながるでしょう。「朝の時間を使う」ということは、誰もがワーク・ライフ・バランスを整えるうえで取り入れられるヒントではないでしょうか。
場所にとらわれない働き方 テレワーク
テレワークとは、ICT(情報通信技術)を活用して実現する、場所や時間にとらわれない働き方のことです。
総務省による「テレワークの概要」では、勤務場所により以下の3つに大別されるとしています。
- 在宅勤務
- モバイルワーク
- サテライトオフィス勤務
在宅勤務とは、文字通り自宅で業務を行うことです。モバイルワークとはノートパソコンやタブレットなどのモバイル端末を利用して外出先で、もしくは移動中などに業務を行います。サテライトオフィスとは、企業または団体の本拠から離れた所に設置されたオフィスのことで、その名は「サテライト(衛星)」に由来します。近年、都心部から離れた地方や田舎にサテライトオフィスを置く企業もでてきました。
テレワークのメリット・デメリット
テレワークでは、混み合った電車での移動や渋滞による遅延などにかかっていた通勤時間とストレスが無くなります。出社が当たり前の状態からくらべるとたいへんなメリットですが、そんなテレワークのデメリットとはどのようなことでしょうか?
テレワークのデメリットは
- 時間の自己管理が難しい
- 会社内での同僚などとのコミュニケーションや取引先とのコミュニケーションが不足する
- 移動をしないことで運動不足になりがち
在宅業務は、集中できずについ仕事以外のことをしてしまったり、逆に長時間仕事に集中してしまうなど、きちんとした時間の管理ができないと、ワーク・ライフ・バランスを崩しかねません。対策としては、会社で指定される勤怠管理ツールを使用することがあるでしょう。自分用に時間管理用のアプリを使ってみるのもよいかもしれません。
また、対面よりはるかに不足してしまうコミュニケーションに関しては、チャットツールやプロジェクト管理ツールなどのテレワークツールを使うことによって、これを補うことができます。テレワークツールの利用に慣れていくようにしましょう。
運動不足のほかにも長時間座りっぱなしが原因の腰痛などもテレワークで生じうるデメリットです。適度に休憩をとり、休憩時には身体を動かすなど、自分なりの習慣を作っていきましょう。適度な休憩と運動は時間管理と密接に関わっているといえます。アラーム機能をうまく使ったり、最近ではテレワーカー向けの健康管理アプリなどもあるので導入してみましょう。
出社勤務とテレワークを組み合わせることでデメリットを解消しようとする「ハイブリッドワーク」を取り入れている企業もあります。ミーティングやセミナーでも現地参加とオンライン参加を可能にするハイブリッド方式で行われることも増えてきていますね。
デメリットもありますが、テレワークのメリットは従来の働き方からワーク・ライフ・バランスを格段に向上させる可能性があります。
テレワークのメリットは
- 通勤時間がかからない
- 家事や子育て、介護などの都合で働く場所や時間が制限される場合でも業務を行える
- ストレス軽減、集中できるなど生産性の向上
通勤が不要ということは、住む場所も自由に選ぶことができますね。通勤時間に当てていた時間は、家族と過ごす時間にしたり、スキルアップのための勉強に使ったりできるでしょう。
ワーク・ライフ・バランスを整える「新しい働き方」に順応していくために
この記事で見てきた「新しい働き方」は、ワーク・ライフ・バランスを向上させるために導入されつつあるものです。
就業形態、就業時間、就業場所をにとらわれない働き方は、とくにこれまで「家事と仕事の両立」に悩まされてきた女性のワーク・ライフ・バランスを向上させるでしょう。ですが、この「新しい働き方」を取り入れることでワーク・ライフ・バランスを整えることができるのは、女性だけではありません。
内閣府の調査によると、コロナ禍が始まった2019年12月からテレワークを継続している男性の家事・育児時間は、令和2年(2020)5月に増加し、同年12月もほぼ同水準となっています。ちなみに、テレワークを中止した男性の家事・育児時間は、令和2(2020)年12月には減少しています。(内閣府「第2回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」)夫婦間でお互い無理なく家事分担できるようになることもまた、ワーク・ライフ・バランスの向上といえます。
新しい働き方で生まれた余暇を家族と過ごすことに費やしたり、または、副業を始めたり、勉強してスキルを磨くことで、会社員とフリーランスの二足のわらじで仕事をすることも可能かもしれません。ひとつの会社に勤め続けることがすべてではなくなり、今後更に働き方は多様化していくと考えられます。それにより、仕事への意識や向き合い方、やり方も変化していくでしょう。
これらの新しい働き方に順応していくためには、たとえば、テレワーク/リモートワークに対応できるよう、web会議ツールやチャットツールの使い方に慣れたり、副業を見据えて新たにスキル取得をするなど、「変化」に対してつねに前向きに取り組んでいくことが大切といえるのではないでしょうか。
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