事務職のリスキリングは何を学ぶべき? 目的別に選ぶITスキルと始め方
仕事のデジタル化が進むなか、「事務の仕事を続けていくために、何か学ぶ必要があるのでは?」「何を学べばいい?」と考える人は多いのではないでしょうか。この記事では、一般事務・営業事務・経理・総務などの経験がある人に向けて、業務と目的に合ったITスキルの選び方を整理します。自分に必要な分野を一緒に見つけていきましょう。
目次
事務職のリスキリングは「今の業務」と「目的」から考える

「事務職として、このまま同じ仕事を続けられるのだろうか」「何か学んだ方がよさそうだけれど、Excel、生成AI、RPA、SAPのどれを選べばいいのか分からない」このような悩みを抱え、リスキリング(学び直し)を検討し始める人も増えています。
しかし、事務職のリスキリングで大切なのは、話題の資格やツールから選び始めないことです。「生成AIが流行っているから」「SAPは転職に有利そうだから」と学習を始めても、自分の業務や目標に合っていなければ十分に活かせません。まず整理したいのは、次の2つです。
- 現在どのような業務を担当しているか
- 学ぶことで何を実現したいのか
世界的なリスキリングの流れ
リスキリングが注目されている背景には、仕事に必要なスキルそのものが変化していることがあります。
世界経済フォーラムの「Future of Jobs Report 2025」では、事務・秘書系職種は今後減少が見込まれる職種として挙げられています。(出典:World Economic Forum「The Future of Jobs Report 2025」)また、2025年から2030年にかけて、労働者が持つ既存スキルの39%が変化、または古くなると予測されています。
さらに同レポートでは、こうした変化に対応するために、リスキリングやスキルアップが重要になることも指摘されています。
今の仕事を効率化したい人と、転職や再就職に備えたい人では、優先して学ぶべき内容が異なります。だからこそ、最初に「何を学ぶか」を決めるのではなく、まずは自分の状況や目的を整理することが重要です。
事務業務はこれからどのように変化していくか?
ただし、これは「事務職がなくなる」という意味ではありません。大きく変わるのは、事務職の業務内容です。データ入力や転記、定型文の作成などは自動化が進む一方で、内容の確認や例外対応、関係者との調整、業務改善といった役割は今後も求められます。
事務職として長く活躍するために必要なのは、これまでの経験を捨てることではありません。これまで培ってきた業務経験に、デジタルツールを使いこなす力を加えることです。
どのようにリスキリングの目標を設定する?
リスキリングとは、新しい仕事や、変化した仕事の進め方に対応するために必要なスキルを身につけることです。ここで大切なのは、資格を増やすこと自体を目的にしないこと。「今の業務に活かせるか」「今後目指したい仕事につながるか」という視点で学習テーマを選ぶことが重要です。
また、リスキリングを考える際に年齢を基準にする必要はありません。考慮すべきは、『現在の業務』と『学ぶ目的』です。まずは、次のような目的の中から自分に近いものを整理してみましょう。
- 今の職場で作業時間やミスを減らしたい
- 担当できる業務を増やし、社内での役割を広げたい
- 転職・再就職で説明できるスキルを身につけたい
- 在宅勤務やオンラインでできる仕事に備えたい
- 経理・人事・購買などの経験に専門性を加えたい
年代より、現在の業務と目的で選ぶ。これが、事務職のリスキリングで遠回りをしないための基本的な考え方です。目的が明確になれば、同じITスキルでも何を優先して学ぶべきかが見えやすくなります。
▶リスキリングの全体的な考え方についてを詳しく知りたい方はこちら
まずは「事務職の業務を棚卸し」してみよう

「自分に特別なスキルはない」と感じていても、普段の仕事を作業単位に分けてみると、すでに身につけている力や、デジタルツールで効率化できる部分が見えてきます。
リスキリングで何を学ぶべきかを考える前に、まずは現在の業務を整理してみましょう。次の表を参考に、担当している業務と、その中で困っていることを書き出してみてください。
■事務業務の棚卸し(参考)
| 現在の業務 | よくある悩み | 学習候補 |
|---|---|---|
| メール・議事録・資料作成 | 文案作成や情報整理に時間がかかる | 生成AI、Word、PowerPoint |
| 売上・顧客・在庫データの集計 | 手入力が多い/集計方法が人によって違う | Excel、Googleスプレッドシート |
| システムへの入力・転記 | 同じ作業を繰り返す/入力ミスが起きる | RPA、業務フロー整理 |
| 請求・経費・会計処理 | 操作だけでなく業務全体を理解したい | Excel、会計知識、SAP |
| 予定調整・問い合わせ対応 | 情報が分散する/引き継ぎに時間がかかる | クラウドツール、生成AI、マニュアル作成 |
棚卸しでは、「どのようなアプリやツールを使ったか」だけでなく、「どのような判断や確認を行っていたか」まで整理することが大切です。たとえば請求書処理なら、入力作業だけではありません。金額や取引先情報の確認、締切管理、差し戻し対応なども重要な業務に含まれます。
「自動化できる作業」と「人の判断が必要な作業」を分けて考える力は、生成AIやRPAを活用する際にも役立ちます。また、業務の流れを理解していること自体が、これからの事務職にとって大きな強みになります。
ツールを活用すれば処理スピードは上げられますが、何を確認すべきか、どのような手順で進めるべきか、例外が発生した場合に誰へ相談すべきかまでは自動で判断できません。だからこそ、長年事務職として培ってきた業務理解は、これから新しいスキルを身につける際の土台になります。
リスキリングは、これまでの経験を捨てて新しいことだけを学ぶものではなく、経験にデジタルスキルを掛け合わせて価値を高めるための学びです。
事務職のリスキリングで学びたい5つのITスキル
ここからは、事務職で活かしやすいスキルを5つに分けて紹介します。すべてを学ぶ必要はありません。現在の業務と目的に近いものから選びましょう。
■事務職で活かしやすいITスキル(参考)
| スキル | 向いている業務・悩み | 最初の到達目標 |
|---|---|---|
| PC・クラウド | PC操作やオンライン共有に不安がある | 安全にファイル共有・連絡・会議ができる |
| Excel | 入力・集計・表作成が多い | 定型集計を正確かつ短時間で行える |
| 生成AI | 文章作成・要約・情報整理が多い | 出力を確認し、仕事に使える形へ整えられる |
| RPA | 決まった手順の反復作業が多い | 自動化候補を見つけ、簡単な処理を作れる |
| SAP・ERP | 経理・人事・購買などの経験を深めたい | 業務とシステムのつながりを説明できる |
1.PC・クラウドの基礎スキル
ファイルやフォルダの管理、メール、オンライン会議、クラウド上での資料共有などは、事務職だけでなく幅広い仕事の土台です。PC操作に不安がある場合は、生成AIやRPAなどへと学習を進めるためにも、まずここを整えるのがおすすめです。
特に在宅勤務では、決められた場所にファイルを保存する、アクセス権を確認する、チャットやオンライン会議で状況を共有するといった力が求められます。PCの基本操作に加えて、パスワード管理や個人情報保護、フィッシング対策など、セキュリティの基礎も学んでおきましょう。
基礎スキルの参考として、IPAのデジタルスキル標準でも、DXを専門としない人を含む、すべてのビジネスパーソンに必要なリテラシーが整理されています。
出典:IPA「デジタルスキル標準(DSS)」
2.Excel・表計算スキル
データ入力や売上集計、請求管理など、表計算を扱う業務が多い人には、ExcelやGoogleスプレッドシートがおすすめです。現在の業務で成果を実感しやすく、リスキリングの第一歩としても取り組みやすいスキルです。
まずは表の整え方、四則演算、SUM関数やIF関数、並べ替えやフィルターの使い方を身につけましょう。次の段階では、検索・集計関数やピボットテーブルなどを学ぶことで、手作業を減らせる範囲が広がります。
大切なのは「関数をいくつ知っているか」ではなく、どの業務で何を改善できたかです。学習中から、毎月行っている集計作業を効率化する、入力ルールを統一するといった小さな改善に取り組むことで、実践的なスキルとして身につきやすくなります。
3.生成AIの活用スキル
メールの下書き、議事録の整理、文章の要約、資料構成の検討などが多い人には、生成AIが役立ちます。
生成AIについて学ぶ際、最初に必要なのは開発などの専門知識ではなく、目的や条件を適切に伝えること、出力内容を確認・修正すること、入力してはいけない情報を理解しておくことが基本になります。
実際の業務では、生成AIを使えることよりも、生成AIが出力した内容を仕事で使える形に整えられることが重要となってきます。AIの出力に対して、事実確認や社内ルールとの照合、相手に合わせた表現への調整などは、「人」が判断する必要があります。
▶事務経験を生成AIにどう活かすか詳しく知りたい方はこちら
4.RPA・業務自動化スキル
決まった手順で繰り返す入力、転記、ファイル作成、定型メールの送信などが多い人には、RPAが候補になります。RPAは、パソコン上で人が行っている定型作業をソフトウェアによって自動化する仕組みです。
ただし、ツールの操作だけを覚えても、業務のどの部分を自動化すべきかは判断できません。業務手順を整理し、例外を洗い出し、自動化後の確認方法を決める必要があります。
現場の業務を知っている事務職経験者は、この「業務を分解する力」を活かせます。Excelや生成AIで一つの作業を効率化したあと、複数の作業にまたがる業務全体を効率化したい人に向いている次の段階のスキルです。
▶RPAの基礎と未経験からの学び方はこちら
5.SAP・ERPスキル
経理・人事・購買・販売管理などの経験があり、その業務知識に専門性を加えたい人には、SAPなどのERPも選択肢になります。ERPとは、会計、販売、購買、在庫、人事など、企業の基幹業務をまとめて管理するためのシステムです。
SAPは、すべての事務職が最初に学ぶべきもの、というわけではありません。PCスキルや業務の基礎を押さえたうえで、自分が経験してきた業務と関連する領域(モジュール)から学ぶ方が理解しやすくなります。
たとえば、経理経験がある人なら財務会計、受発注や在庫管理の経験がある人なら販売・購買領域から学ぶ方法があります。過去の業務経験とSAPの接点を確認しながら学ぶことで、これまでの知識を専門性へ発展させやすくなります。
生成AIやExcelより学習範囲は専門的ですが、これまでの業務経験を企業の基幹システムに結びつけられる点が特徴です。
▶SAPの全体像と学習ロードマップはこちら
目的別・事務職のリスキリングロードマップ
同じ事務職でも、目指す働き方によって学ぶ順番は変わります。大切なのは、人気のスキルから学び始めるのではなく、自分の目的に合わせて優先順位を決めることです。
次の4つのパターンから、自分に近いものを選んでみてください。

①今の職場で業務を効率化したい
まずは、現在の仕事で成果を実感しやすいことから始めましょう。
- PC・クラウドの基礎を確認する
- Excelまたは生成AIで、一つの作業を改善する
- 改善前後の作業時間やミスの発生状況を記録する
- 複数の作業を含む業務フローを自動化したくなったらRPAへ進む
最初から高度なスキル習得を目指すより、週次集計や議事録作成など、効果を確認しやすい一つの作業を改善することから始めるのが現実的です。
小さな成功体験を積み重ねることで、次のステップへ進みやすくなります。
②転職・再就職に備えたい
転職や再就職を目指す場合は、希望する仕事で求められるスキルを確認することから始めます。
- 希望する求人で求められているツールや業務内容を確認する
- 不足しているPC・Excelの基礎を補う
- 生成AIやRPAなど、希望する仕事に近いスキルを一つ加える
- 学習内容や成果物を職務経歴書で説明できる形にする
「講座を修了した」だけでは、採用側に自分のできることが伝わりません。
例えば、
- Excelで売上集計表を作成した
- RPAで転記作業を自動化する演習を行った
など、使用した機能や成果物を具体的に言語化できるように準備しましょう。
③経理・総務などの経験に専門性を加えたい
これまでの経験を活かしながらキャリアの幅を広げたい人は、専門性を高める方向で学ぶ方法があります。
- 自分が担当してきた業務と、その前後の流れを整理する
- ERP・SAPや業務自動化の全体像を学ぶ
- 経験に近い業務領域を重点的に学ぶ
- 操作演習やケース課題を通じて、業務とシステムを結びつける経験を積む
これは、まったく別の職種へ移るのではなく、既存の業務経験に専門性の高いデジタルスキルを掛け合わせる進み方です。ツール名や操作方法だけでなく、「業務のどの情報が、次の工程へどのように流れていくのか」を理解することが重要です。
④在宅勤務や柔軟な働き方に備えたい
在宅勤務やオンライン中心の働き方を目指す場合は、まずオンライン環境で仕事を進める基礎を整えましょう。
- ファイル管理、オンライン会議、チャットなどの基本操作を身につける
- Excelや文書作成など、オンラインで納品できるスキルを習得する
- 生成AIやRPAで作業の品質や効率を高める
- 情報管理、期限管理、報告・連絡など、非対面で働く力を磨く
在宅で働くためには、ツールを使う力だけでなく、仕事を自律的に進める実務力も必要です。依頼内容の確認、期限管理、報告・連絡・相談、機密情報の取り扱いなどは、働く場所が変わっても欠かせません。
たとえば「AIを学べばすぐ在宅で働ける」というわけではなく、在宅業務に必要な基礎スキルと組み合わせて準備することが大切です。
▶在宅ワークと生成AIの関係を詳しく知りたい方はこちら
あなたが最初に学ぶべきスキルは?簡易診断
リスキリングへの第一歩として、まずは自分に合った学習テーマを見つけてみましょう。
迷ったときは、次の項目から今の自分にもっとも近いものを選んでください。二つ以上当てはまる場合は、まず基礎となるスキルから取り組むと、その後の学習も進めやすくなります。

✅ ファイルの保存場所やオンライン共有に不安がある
→ PC・クラウドの基礎
✅ 入力や集計に時間がかかる
→ Excel・表計算
✅ メール、議事録、資料作成が多い
→ 生成AI
✅ 決まった手順の転記や入力を減らしたい
→ RPA
✅ 経理・人事・購買などの経験を専門性に変えたい
→ SAP・ERP
✅ 在宅で事務・アシスタント業務をしたい
→ PC・クラウド+Excel/生成AI
判断のポイントは、ツールの人気ではなく、「現在の業務で試せるか」「目指す仕事で必要か」「学んだ後に何ができるようになるか」の3つです。
最初から多くのスキルに手を広げる必要はありません。まずは今の仕事や目標にもっとも近い分野を一つ選び、小さく始めてみましょう。
リスキリング講座を選ぶときの確認ポイント

独学や無料教材でも、PCの基本操作や生成AIの基礎は学べます。まずは気になる分野を試しながら、自分の目的や苦手な部分を把握する方法もあります。
一方で、実務につながる課題へのフィードバックが必要な場合や、学習後の働き方まで相談したい場合は、有料講座やサポート付きのプログラムを検討するとよいでしょう。講座を選ぶ際は、料金や知名度だけで判断するのではなく、「学んだことを仕事で活かせるか」という視点で確認することが大切です。
ツールの操作だけで終わらないか
ツールのボタンの位置や操作手順だけを覚えても、アップデートによって画面や機能が変わることがあります。そのため、操作方法だけでなく、「どの業務で、どのように活用するのか」まで学べる講座を選ぶことが重要です。
業務で利用する目的や活用場面、例外が発生した際の対応、処理結果の確認方法まで学べる講座であれば、より実務に結びつきやすくなります。
実務に近い課題や演習があるか
動画を見るだけの学習よりも、実際に手を動かして学ぶ機会があるかを確認しましょう。表作成や資料作成、業務フローの設計、自動化処理などを自分で作る演習があると、知識を理解するだけでなく実践力も身につきます。
学習後に成果物や取り組み内容を説明できる状態になれば、現職での業務改善や転職活動にも活かしやすくなります。
学習後のキャリアまで相談できるか
学んだスキルを、希望する働き方やキャリアにどのように活かしていくかも重要なポイントです。転職や再就職を考えている場合は、
- これまでの経験の棚卸し
- 就労条件の整理
- 職務経歴書の作成
- 求人の探し方
などについて相談できるかも確認しておきましょう。
スキルを学ぶことと、そのスキルを仕事につなげることは別の課題です。学習後のキャリア支援まで受けられる講座なら、学びを実際の働き方へ結びつけやすくなります。
生活と両立しながら継続できるか
短期間で詰め込むことよりも、仕事や家庭と両立しながら続けられることが重要です。受講できる時間帯や質問方法、欠席時の対応、学習期間終了後の教材利用、受講者同士の交流機会なども確認しておきましょう。
「レベルの高い講座」よりも「無理なく続けられる講座」を選ぶことが、結果的にスキル習得への近道になります。モチベーションを保ちながら継続できる環境かどうかも、自分に合った講座選びの大切な判断基準です。
事務経験にデジタルスキルを加えて、次の働き方へ

事務職のリスキリングは、これまでの経験を捨ててまったく別の職種を目指すためのものではありません。入力や集計、確認、調整、情報共有、期限管理など、これまで培ってきた経験にデジタルスキルを掛け合わせることで、仕事の幅を広げたり、働き方の選択肢を増やしたりすることができます。
この記事で紹介したように、事務職のリスキリングでは、まず現在の業務を棚卸しし、「何に時間がかかっているのか」「今後どのような働き方を目指したいのか」を整理することが大切です。そのうえで、
- PC・クラウド
- Excel
- 生成AI
- RPA
- SAP・ERP
の中から、自分の業務や目的に合った分野を選びましょう。
大切なのは、話題のスキルを追いかけることではなく、「今の仕事で試せるか」「目指す仕事で必要か」という視点で学ぶことです。また、最初から多くのスキルを学ぶ必要はありません。まずは一つの分野から始め、小さな業務改善や実践を積み重ねていくことが、リスキリングを継続する近道です。
事務経験は、これからの時代でも価値のある強みです。これまでの経験にデジタルスキルを加え、自分らしい次の働き方につなげていきましょう。



